旧の暦のお節句が今の暦からはずんとズレてることを、
しみじみと思い知らせてくれるよに。
筆者のお家の裏手では、濃緋の桃の花が満開だったり致しまし。
それぞれの枝へみっちりとついた可憐で愛らしいお花たちは、
女の子のお祭りの桃の節句に、文字通り花を添えたことでしょね。
このころくらいまで日が進むと、
さすがに陽気もよくなり、すっかりと春めいて来て。
桜の花もあちこちで、競い合うよに咲き誇り。
里から見上げる山肌は、
桃や桜のけぶるような緋や臘梅の黄色、木蓮の濃紫。
松や竹の緑を縁取るは、萌え始めの淡い緑。
まだちょっと枯れ枝なままな白っぽい梢などなどをも取り揃え、
さながらお花見のお重箱みたいに、
そりゃあ華やかな色たちを詰め合わた図となって。
そこから届いたものだろう、春告げ鳥の澄んださえずりに、
「…っ。」
おやおや、縁側にいた坊やのお耳がひくくと震えた。
朝のうちはまだちょっと寒いのでと、
薄いめに綿が入った袷あわせは桃緋で、
縁側に投げ出した小っちゃなあんよをくるむ、袴の方は土茶と渋め。
外観は立派な“あばら家”屋敷でも、それなり家人が手入れをしていて、
坊やが座る縁側廊下は、焦げ茶の床がつやつやで綺麗。
それが先にはいつもの広間があって、
でもね、大好きなお館様は綿入れにくるまって寝間にてネンネ。
くうが来たのをお迎えしてくれた、おとと様が着てたのかな?
だって、同んなじによいがするもの。
そのおとと様は、塒の祠でお仲間とのご挨拶があるって早くからお出掛けで。
お友達のせ〜なは、庫裏のほうでおばさんのお手伝いに忙しそう。
でもでも、さっきから卵を焼くいいによいがしているから、
もうすぐ朝餉のお時間が来る。
待ち遠しいな、わくわくvv
天世界の宮廷のご飯も美味しいけれど、
“ちゅたさんの玉子焼き…ふかふかvv”
それと、とろりと甘ぁいそぼろあんとは、
くうちゃん いっちばん大好きで。
思った途端に期待が高まり、そわそわとお尻尾が揺れるほど。
わんこと違って ゆらりしたり、
どっちかというと猫のそれみたいに、
軽やかな揺れ方をするふさふさのお尻尾は。
天世界では朝方と寝る前に、
綺麗なお姉さんたちが柘植の櫛で梳いて下さるものだから。
いつもつやつやいい毛並み。
朝方の目映い陽を弾き、小さなお背せなの向こうで揺れてる。
「あ…。」
またまた聞こえたウグイスの声へ、小さなお耳がひくひく震える。
真ん丸な頭には、甘い色合いの栗色の髪とそれから、
その隙間から覗いてる、三角のお耳がひょこりと立っていて。
内側は産毛みたいなやあらかい毛並みなもんだから、
外側も淡い茶色の短めのやあらかい毛並みなもんだから、
セナくんは毎度毎度さわりたい誘惑と戦い、
お館様は…その点へは遠慮なく、むにゅむにゅと弄っておいで。
『や〜の〜。』
『可哀想ですよう。』
『何を言うか。過保護にし過ぎるといざという時に負けるばかりぞ。』
耳の先っぽみたいなところで、一体何とどう戦うのか、
それは誰にも判らないままだけれど。
おやかま様が言うのなら、そういうことだってあるのかも。
「う〜〜〜。」
試しにと、自分の小っちゃなお手々を頭にやって、
ひょこり立ってるお耳へ“えいっ”て、ぱふりと触れてみる。
自分で触るのは何ともないの。
やわやわなの、ぎゅむと倒して伏せても何ともないの。
おやかま様も痛いほど摘まんだりはなさらない。
でもなんか、
撫で撫では嬉しいだけれど、
もしゃもしゃや くしゅくしゅは、ちょっと落ち着けないの。
まだまだしゅぎょーが足りまちぇんと、
物憂げにも はふうと吐息をついていたらば、
「あ…vv」
今度聞こえたのは、微妙に違う“ひゅー・けきょけきょ”で。
思わず立っちしてまわりをキョロキョロ。
だってこれって、
「あぎょん?」
いつもは裏山の薮の奥の祠から離れないのにね。
やっと起っきしたのかな?
今日と昨日ともっとの昨日と、あったかいものねvv
うあうあ、うれしいなvv
ご飯を食べたら遊びにゆこう。
玉子焼きを半分残して、
セ〜ナにはお留守番しててもらって、
そいで裏山まで遊びにゆこう♪
「♪♪♪♪」
今度は間違いなくの“嬉しい気持ち”から、
ふさふさなお尻尾がはたはたと揺れてる、小さなくうちゃんなのでした。
〜どさくさ・どっとはらい〜 08.4.09.
*おとと様の会合というのも、
阿含さんが起きたらしいのでという
厳重注意の申し送りだったりしてな。(う〜ん)
そんなあぎょんさんへの、冬の間のふかし饅頭の差し入れも、
今朝は半分残そうと健気にも思ってるらしい玉子焼きも、
セナくんや賄いのおばさまにはあっさりお見通しなこと。
ほれ、ちゃんとお食べなさい、
お土産にはこっちを持って行きなさいねと、
別口のを多い目に用意してもらってたりします。
めーるふぉーむvv 

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